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債権法改正1:法定利率について

1 はじめに

現在,国会では民法(債権法)改正案が審議されており,今年から来年の国会で成立し,2019年から2020年頃施行されることが見込まれています。現行法下で積み上げられてきた判例法理が明文化される箇所も多いですが,全く新しいルールが置かれる箇所もあります。
今回は,その中で法定利率の改正について紹介したいと思います。

2 法定利率とは

⑴ 法定利率の意義

法定利率とは,契約の定めによって利息が発生するけれども,その利率が契約で定められていない場合や,法律の規定によって利息が発生する場合に適用される利率のことを言います。
例えば,銀行預金の利息は,契約の定めによって発生しますが,その利率が契約で定められているため,約定利率が適用されます。
他方,金銭債務の不履行による損害賠償額は,法定利率によって定められることになっており(民法419条1項),たとえば100万円の売買代金支払請求の場合,100万円の代金支払いに加えて,しばしば弁済期の翌日からの法定利率を付した額を請求します。

 

⑵ 現行法上の法定利率のルール

現行民法上,法定利率は年5%とされています(民法404条)。
また,商行為によって生じた債務の法定利率(商事法定利率)は年6%とされています(商法514条)。
しかし,この利率は,市場金利と著しくかけ離れていて妥当でなく,債権者に紛争の解決を引き延ばすインセンティブを与えるなどの弊害を引き起こし得るとの批判がありました。
また,法定利率が適正な水準か否かは,我が国の一般的な経済情勢,とりわけ金融市場における一般的な金利の趨勢との対比で評価されるべきことにはおおむね異論がないところであり,そもそも法定利率を固定して定めていることに対しても,金融市場の実勢を示す指標の変動に連動して,法定利率の数値も自動的に変更されるものとする仕組み(利率の変動制)を採用するべきであるとの批判がありました。
そこで,改正法は,次のようなルールを採用しています。

3 改正法における法定利率のルール

⑴ ルールの概要

① 法改正時の法定利率―5%→3%への引下げ
 法改正時の法定利率は,年3%となります(改正民法404条)
② 法改正後の法定利率―法定利率変動制(3年に1回,1%単位で見直し)の採用
ⅰ 3年を1期として,1期ごとに後述の基準割合をもとに法定利率の見直しを行う(改正民法404条3項)
ⅱ 基準割合は,銀行が新たに行った1年未満を期間とする貸付け(短期貸付け)の平均利率の過去5年の平均値(0.1%未満の端数は切り捨て)とする(改正民法404条5項)
ⅲ 直近変動期(法定利率が変動した直近の期)の基準割合と当期の基準割合との差が1%以上となった場合,直近変動期における法定利率に1%単位の加算又は減算を行った割合をもって,当期における新たな法定利率とする(改正民法404条4項)
③ 適用利率を利息が発生した最初の時点における法定利率に固定
 利息が発生した最初の時点の法定利率を適用利率として固定し,その後の法定利率の変動によっても適用利率は変更しないものとする(改正民法404条1項)。
④ 商事法定利率(商法514条)の廃止,民法上の法定利率への一本化

 

⑵ 法定利率の見直し方法

②の法定利率の見直しに関するルールはなかなかわかりにくいです。
例えば,改正法が2020年1月1日に施行されたと仮定すると,第1期は2020年1月1日から2022年12月31日の3年間になります。
そうすると,法定利率の見直しが始まるのは,第2期にあたる2023年1月1日からです。
仮に第1期の基準割合(2014年1月から2018年12月までの銀行短期貸付の平均利率)が0.7だとすると,第2期の基準割合(2017年1月から2021年12月までの銀行短期貸付の平均利率)が1.7未満なら,直近変動期との当期との基準割合の差が1%未満なので,法定利率の変動は生じません。
逆に言うと,基準割合が1.7以上となる期が来るまでは,法定利率の変動が生じないことになります。
改正後の第T期スタート時に初めて基準割合が1.7を超え,1.9となったとしましょう。
この場合,第T期の基準割合1.9が第1期の基準割合0.7との差が1.2(1%以上)になったことから,法定利率は第1期の3%に1%を加えた4%とされることになります。
そして,第T期以降は,第T期(基準割合1.9)が直近変動期となり,それ以降,基準割合が初めて0.9以下又は2.9以上となった期に再び法定利率の見直しがなされることになります。

 

4 改正による実務上の影響

⑴ 債権管理について

統一的,画一的に契約を締結し,債権を管理している企業では,債権の発生時期によって遅延損害金が変わる可能性があるため,対応が必要になります。
その場合,債権管理コストを抑えるため,賠償額の予定(420条1項)として遅延損害金を「年○分」などとあらかじめ契約で定めておくのが望ましいと考えられます。
※ 利息の約定利率とは別に遅延損害金として定める必要があります。約定利率しか定めていないと,法定利率が約定利率以下の水準に保たれている間に発生した債権の遅延損害金には約定利率が適用されますが,法定利率が約定利率を上回ってから発生した債権の遅延損害金には法定利率が適用されるため(419条1項但書),債権管理コストの削減効果が限定されてしまうからです。

 

⑵ 中間利息控除について

債務不履行や不法行為に基づく損害賠償請求において,将来取得する利益や将来発生する費用が損害の算定の際に現れてくることがあります。
このような将来の利益,費用を現在価値に換算するために,利息相当額(中間利息)を控除することを中間利息控除と言います。
判例において中間利息は法定利率によるものとされていましたが,今回の改正では,中間利息控除は法定利率によるものとされました(改正民法417条の2)。
例えば,1年後に1000万円得られる利益があるとして,5%利率の中間利息控除をすると,
1000万円÷1.05
≒952万3809円
となるため,当該利益を現在の価値に割り引くと,952万3809円になります。
2年後に1000万円得られる利益だと,同じ計算を2回し,
1000万円÷1.05÷1.05
≒907万0294円
となり,当該利益を現在の価値に割り引くと,907万0294円になります。
このような計算を繰り返した結果,年収1000万円の人がこれから5年間全く働けなくなった場合の年収分の損害(逸失利益)を現在価値に引き直すと,5000万円ではなく,
952万3809円+907万0294円+863万8375円+822万7024円+783万5261円
=4329万4763円
とするべきことになります。
これを3%利率で計算すると,
970万8737円+942万5959円+915万1416円+888万4870円+862万6087円
=4579万7069円
となり,5%利率での計算結果より250万円以上もアップすることになります。
交通事故の場合,よく労働能力の喪失に応じて逸失利益(損害額)の計算をします。
ただ,何十年にもわたる複雑な計算となるため,現実にはライプニッツ係数という数字を用いて簡易な計算を行います。
上記のように,控除される利率が下がると損害額が大きくなってきます。
そのため,事故の発生確率と予想される損害額を基準に保険料を定めている自動車保険などでは,保険料が上がるのではないかという指摘もなされているところです。

相続:遺言書を見つけたら?(その2)

前回の記事の続きです

遺言の検認が済めば,今度は,遺言の内容を実現していく必要があります。

その実現方法は,遺言の内容によって変わってきます。
遺言の内容を前提に相続人全員で遺産分割等の手続をすれば足りる場合もあれば,遺言執行者を指定して職務を執り行ってもらわなければならない場合もあるからです。
遺言執行者とは,遺言の内容を実現するための仕事(遺言の執行)をする者のことです。

次のようなルールで選ばれることになっています。

・遺言で遺言執行者が指定されている場合遺言で指定された者
・指定されてないor指定された者が亡くなっている場合家庭裁判所が選任した者
後者の場合,相続人が,遺言執行者の選任を家庭裁判所に求めることになります(手続は裁判所HP参照)。

そもそも遺言によってなし得る事項は法律上次のように限定されています。

① 財団法人設立の意思表示(一般財団法人及び一般財団法人に関する法律152条2項)
② 認知(民法781条2項)
③ 未成年後見人の指定(民法839条)
④ 未成年後見監督人の指定(民法848条)
⑤ 推定相続人の廃除又はその取消し(民法893条,894条)
⑥ 祖先の祭祀主宰者の指定(民法897条1項但書)
⑦ 相続分の指定,指定の委託(民法902条)
⑧ 特別受益者の持戻しの免除(民法903条2項)
⑨ 遺産分割方法の指定,指定の委託(民法908条前段)
⑩ 遺産分割の禁止(民法908条後段)
⑪ 相続人相互の担保責任の分担(民法914条)
⑫ 遺贈(民法964条)
⑬ 遺言執行者の指定,指定の委託(民法1006条1項)
⑭ 遺贈減殺の順序,割合の指定(民法1034条但書)
⑮ 信託の設定(信託法3条2項)
⑯ 生命保険金受取人の変更(保険法44条1項)

たとえば,②子の認知が遺言の内容となっている場合,遺言執行者を選任しなければ認知の届出ができないので(戸籍法64条),遺言執行者を選任する必要があります。

他方,遺言と言えば,典型的には,⑦相続分の指定,⑨遺産分割方法の指定,⑫遺贈といった遺産をめぐるものが多いですが,相続人さえいれば遺産分割協議をすることもできるし,不動産の登記や預金の入出金などの手続も相続人全員の同意があればできるため,必ずしも遺言執行者を選任しなければならないわけではありません。
ただ,相続人や遺産に含まれる財産が多い場合には,財産を整理して全員の同意を取りながら手続を進めていくのに時間と手間がかかってしまうため,遺言執行者を選任する方が良いでしょう。
また,相続人や遺贈を受けた受遺者らの間に潜在的な対立がある場合には,遺言執行者が中立な第三者として手続を取れば,関係者同士で遺言の執行に無用な不信感を抱き合うことなく進めることができるというメリットもあります。

相続問題には,その他にも,遺産の調査や相続人の調査など,遺言の執行や遺産分割協議にとりかかるまでに難しい問題がたくさんあります。

お悩みの場合には,当事務所へお気軽にご相談ください。
(毛利 圭佑)

相続:遺言書を見つけたら?(その1)

被相続人が亡くなり,遺品整理などをしているときに,遺言書を見つけたらどうすればよいでしょうか。

遺言には,主に
公正証書遺言:被相続人が公証人役場で公正証書として作成してもらう遺言
自筆証書遺言:被相続人が自筆で作成した遺言
の2種類があります。

自筆証書遺言の場合には,遺言執行の準備段階として,家庭裁判所で遺言書の検認手続(手続については裁判所HP参照)を取ってもらう必要があります。公正証書遺言の場合には,検認手続は不要です。
また,遺言書に封印(封筒に「遺言書」などと書いて口を糊付けしているような場合)には,検認を行うまで開封することもできないことになっています。遺言書と書かれた封筒を見つけた場合,中身が気になっても勝手に開けてはいけないという点には注意が必要です。
このことは知らない方も多いので,自筆証書遺言をする側としても,開封せずに家庭裁判所で検認してもらうことなどとメモ書きを付けておくのが親切かもしれません。
遺言書の検認は,あくまで,相続人に対して遺言の存在と内容を知らせるとともに,後日,遺言書の内容を書き換えたり遺言書を破棄したりすることを防ぐための手続です。
そのため,検認を経たからと言って,「真に被相続人が書いたものなのか」や「遺言として有効なのか」などの点が確定されるわけではないということにも注意が必要です。

(遺言書の検認)

民法第1004条
1項 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2項 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
3項 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
遺言書の検認を経た後どうするかについては次回書きます。
(毛利 圭佑)